27のとき、癌になった。
冬に入院・手術して、退院できたのは太陽のギラつく真夏だった。
闘病生活が長くなったのは術後に癌細胞を調べた結果、4段階の下から2番目に悪いランクだったため、両脚のリンパ節を取ったり、抗がん剤の化学治療が1クール増えて3クールになったりしたためだ。
担当のドクターから、抗がん剤の副作用について2つ言われた。
1つは吐き気。
抗がん剤初日。午後から投入で、その前の昼食はチャーハンだった。院内食だからアツアツではなく、もちろん冷えきったやつだ。
いつも通り、残さず胃袋の中に入れた。
その後、点滴で抗がん剤が入ったが、とくに変わりはなかった。
抗がん剤が終わって、次の食塩水かなにかの点滴が3本つづいたが、途中から強烈な吐き気に襲われた。嘔吐物を入れる容器も用意されていたが、他患者にわるいので、トイレにかけこんだが、胃の中の液状のチャーハンが喉の手前で止まった。
毎日点滴を何本もして否がおうにも身体の中に水分が入ってくるため、喉が渇かない。
胃の中に水分があまりないため、吐こうにも勢いが出ず、食道の壁面に泥のように貼りついたまま、ひたすらベッドで丸くなって耐えた。
この時以来、約30年、チャーハンはほとんど口にしていない。
これより数年間、点滴を見ると反射的に気持ち悪くなったし、抗がん剤が初めて身体に入った5月6月の時期になると、あのぬるまった空気のニオイを思いだして気持ち悪くなった。
2つ目は、頭髪が抜けること。
朝起きて病室の枕を見ると、抜けた髪の毛がたくさんあった。
院内での入浴で洗髪すると、髪の毛がごそっそり抜けた。
が、ツルツルにはならなかった。
スカスカだったけど、すべて抜け落ちたわけではなかった。
担当のドクターはわたしの頭を見て、薬が効いてない・・っことはないか・・と呟いた。
それ以来、髪には自信を持った。
将来ハゲの心配はしなくて良さそうだな、と。
そんなわたしだったが、職業をガラッと変え、つまり農家になって、髪の自信が揺らぎ始めた。
今ハヤリのイチゴ農家やトマト農家のような管理されたハウスのなかでのインドア作業ではなく、雨・風・太陽の下(もと)の、野外での仕事のため、春と夏、紫外線の多い季節に植え替えと言う作業があるため、帽子は常に被らねばならぬ。
帽子は蒸れる。
蒸れは頭皮とか毛穴によくないらしく、わたしの周りの専業農家の人は帽子を取るともれなく禿げている。
わたしも農家になって16~7年、去年の夏はかなりヤバくなった。
わたしの不禿神話は、今年の夏あたりで崩れそうなのである・・。
※去年の夏に書き始めたが、途中で放置、そのまま冬になって年が明けて、書くことなくなって、とりあえず書き上げてみた。
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