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空をかついで

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 私のふるさとは
 地方、という所にあった。
 私の暮らしは
 首都の片隅にある。
 ふるさとの人は山に木を植えた。
 木は四十年も五十年もかかって
 やっと用材になった。
 成人してから自分で植えたのでは
 一生の間に合わない。
 そういうものを植えて置いた。
 いつも次の世代のために
 短い命の申し送りのように。
 もし現在の私のちからの中に
 少しでも周囲の役に立つものがあるとすれば
 それは私の植えた苗ではない。
 ちいさな杉林
 ちいさな檜林。
 地方には
 自然と共に成り立つ生業 (なりわい) があったけれど
 首都には売り買いの市場 (いちば) があるばかり。
 市場 (しじょう) ばかりが繁栄する。
 人間のふるさとは
 地方、という美しい所にあった。
                               石垣りん/地方~「空をかついで」より
 
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Posted in 音楽/言葉

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