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灰色の勾配

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 もういい、一言も語るな。
 過剰・・・・・・その地点まできて、おまえは石を蹴った。
 「石の中に私の眼を!」
 そして誰が私の生に躓くか。
 おまえは私に背中をむける。
 そうだ、これで私の孤独も充分というものだ。
 おまえは黙って歩きだす、再び邂うために、それとも生涯邂うことのないように、
 水脈(みを)ひくような薄青い時間の中で、私は呟く、
 「振りかえったらそれまでだ」
 水脈(みを)ひくような薄青い距離をつくって、おまえは無言で私から遠ざかる、
 私の唯一の孤独を背に閉じこめて。
 そこから坂がはじまっていた。
 
 灰色だな この勾配は
 私はそういう抵抗を欲する
 壁なんかありやしない
 どこまでも青磁に暮れて
 その夜の果てまで坂はつづくのだ
 私への抵抗
 私のための灰色の勾配は
 
 坂をのぼる
 いまは一心に風に堪え
 抵抗を瞶めて 坂をのぼる
 振りかえったらそれまでだ
 私の痕跡よ もう一人の私よ ついて来い
 何処までも私について来い
 
 私の半生に於ける唯一の絶望期に在って、
 私は自我愛と自虐との両極を私の内奥に持つ。
 その中間を満たし得るものは何か、何者であるか。
 夜が来た。
 おまえに坂がまだ見えるか!
 
                                  「坂に関する詩と持論」/田村隆一
 
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Posted in 音楽/言葉

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