その窓は閉ざされたままだった
中には誰もいなかった
机の上はきちんと片づいていた
読みさしの本がおいてあり
インクの壺はからからに乾いていた
これから何かがはじまるようにみえた
もう終わったあとかもしれなかった
とにかくひっそりかんとしていた
壁には古びた人物像の
眼だけが大きくかがやいていた
それに追い立てられるように
窓枠のすきまから覗いていたてんとう虫は
向きをかえ背中を二つに割って
燃えるひかりの中へ飛び去った
木下夕爾/「内部」
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