.
湖をのぞきこむものは すべて
湖から逆さに観察され
逆さに批評される。
しかも
高い山 高い樹は
低い山 低い樹より 深く
水底に沈められて。
さて
他を批評するだけで
自分を批評しない湖は
とらえている空の高さを
自分の深さだと信じている。
そんな湖を
いまいましく思っている風は
ときおり 湖面に一打ち浴びせ
湖の批評眼とやらを
あっさり かき乱す。
【吉野弘/湖】
.