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ひとさらいというのは、みんなが遊んでいる所へこっそりやってきて、
前からいるような顔をしていっしょに遊んだり、笑ったりします。
そしてそのうちに、お友達のひとりをさらって、いつのまにかいなくなってしまうのです。
だから、遊んでいるうちに、仲間がひとりふえたような気がしたら、
そのときはもうそこに、ひとさらいがいるのです。
遊んでいるうちに、仲間が一人ふえたような気がして、
またそのうちに、今度は二人へったような気がしたら、
そのときにはもうそこから、ひとさらいがお友達を一人、さらってしまったあとなのです。
だれも、ひとさらいをみたひとはありません。
どんなひとさらいもみんな、いつも遊んでいる近所のお友達のような顔をしていますから、
遊んでいるうちに仲間が一人ふえたような気がして、あたりをみまわしても、
誰がそれかわからないのです。
ひとさらいがさらってゆく子も、いつもいちばんおとなしい、
いちばん静かな、いちばん目立たない子ばかりですから、
その子がいなくなっても、誰かがへったような気はしますが、
誰もそれが誰だか、わからないのです。
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別役実/『ひとさらいのはなし』 ヨリ
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